USの資産運用とクレジットスコア

前回ベイエリアでの収入や支出についてまとめたが、今回はUS生活でのお金に関するそれ以外の話、具体的には銀行、クレカ、投資、年金などについてこれまで調べたり考えたりしたことを書いておく。

日本に住んでる人でも、金利が0.01%や0.001%の普通預金をメインで使っていたり*1、クレカのポイント還元率が1%だったり、確定拠出年金をやってなかったりする人にはその辺りを見直すきっかけになる話もあるかもしれない。

方針

資産運用が趣味でも仕事でもなく、何もしなくても金がいっぱい増える仕組みが欲しい人を念頭に置いている。普段ほぼ運用に手間をかけずに生活し、1年に1度くらいなら運用に手間をかけてもいいが、それ以外の時間はプライベートや自己投資*2に費したい場合のお金の最適化について書いている。

銀行

Checking

現金の出し入れに使う口座。Savingsの方が一般に金利が高いので、ここには普段ほとんどお金を残さずに過ごすことになる。そのため、支店やATMの多さ (Wells Fargo, Chase, Bank of Americaが多い) や、クレカと同じアプリで管理できるといった利便性を重視してもここはあまり損はしないと思う。金利が高いChecking口座の中で自分の状況では便利そうなものがあるなら、それに変えるとよさそう。

僕は移住の最初Bank of Americaを使っていたのが、今は後述の理由によりChaseを使っているが、Sign upボーナスの維持に必要な半年が経過したらChase以外に変えるかもしれない。

Savings

貯蓄に使う口座。金利がCheckingより高くてもインフレ率より低ければここに資産を置いておくと価値はどんどん下がっていくのだが、何らかの理由により現金を取っておく用事がある場合はなるべくここにいれておくと比較的まともな金利で保管できる。定期預金とは違い、引き出したければいつでも気軽にtransferできる。

僕が日本にいたころ、アメリカの銀行口座は金利が2%とかでお得なんですよと聞いたことがあった。実際僕が使っているAmexのSavingsも2年前は金利2.1%だったらしいのだが、コロナの間にどんどん下がって今は0.6%になった。世知辛い。他のSavingsでも大体そんな感じ。

クレジットカード

クレジットスコアの維持

以前、クレカの申請にはクレジットヒストリーが必要で、クレヒスにはクレカが必要であるというブートストラップ問題について書いたが、単にブートストラップした程度のクレジットスコアでは欲しいクレジットカードが手に入らないことがある。

移住したころ、クレジットスコアを上げるために車のローンを契約したりしていた*3ため1年経たずにクレジットスコアが750弱 *4 に到達したのだが、その後1か月で90ptsスコアを落としてしまったことがあった。

これはクレカ費用の支払い方法が原因だった。というのも、Auto Payは設定していた *5 のだけど、Due Dateに支払うように設定していて、クレジットヒストリーにレポートされるタイミングはその2日前のStatement Dateだったので、かなり枠を使ってる状態でレポートされてしまったのである。これに気付いてからはStatement Dateの1日以上前に、DueではなくBalance全部を払うといったAuto Payにしている。その結果720弱まですぐ戻ったのだが、それ以上はほとんど戻らなくなってしまった。注意されたい。

Chaseのクレカの申請

Chaseのカードを申請する場合、過去24か月の間に銀行を問わず5枚までしかクレカを開設させないという、有名な5/24 Ruleに気をつけなければならない*6。Chaseが発行するカードに今後欲しいものがあれば、他のカードより先に作るのを検討する必要がある。

Chaseは就労ビザで発行されたSSNを持つ人のクレカ申請を受理しなくなったというが流れた時、Chase Freedom Unlimitedというカードを申し込んでみたのだが、当時750弱のクレジットスコアにも関わらず落ちた。

数日後、封書でリジェクト理由を知ったのだが、これはその噂のせいではなく、既存のクレジットの期間が短く、Chaseとの関係も浅い(無)ためであると説明があった。後者を満たすためにChaseのChecking口座を開設してそちらに全てのChecking利用を移した後、後日Chaseの支店に相談に行ったところ、クレカの期間は1年になるくらいは必要で、前回の申請から期間を開けるのとCheckingの履歴を構築するために2〜3か月待つように言われ、実際そのくらい待ったら (別だが、同程度の審査基準の) Chaseカードの審査が通った*7

キャッシュバックの最適化

前置きが長くなったが、USでの買い物で損をしないために重要なのはクレカのキャッシュバック率である。USではほとんどの店でクレカが使えるけど、これはつまりその店がクレジットカード会社に手数料を払っているということになり、自分がクレカで支払いをするかどうかに関わらずそれが品物の価格に折り込まれている。これを取り返すにはクレカのキャッシュバックを使うしかなく、その率が低いほど買い物をする度に損をしていく。

一般に、ほとんどのカードで1%は戻ってくる。消費者が全員得をするように作られているとは考えにくいので、まず1%は避けた方が良い。何に使っても1.5%戻ってくるカードはそこそこあるが、2%戻ってくるカードも普通にあるので、後者にしておくのが無難 *8。 @yusk_ さんが良いクレカをまとめてくださっており、参考になる。

特定の用途で3~5%程度のキャッシュバックが適用されるカードもあり、面倒でなければそれを使っておくと良い。例えば、僕はAmazon Prime Rewards Visa Signatureカードを持っていて、これをAmazonに設定しておくだけでAmazonでの買い物がPrime会員なら5%、そうでないなら3%キャッシュバックになる。 四半期ごとに高いキャッシュバック率を特定のカテゴリに指定してくるカードもあるけど、何が今キャッシュバックされるかを定期的に暗記し直す必要があり、方針に書いた通り面倒な運用はしたくないので使っていない*9

僕は今のところ年会費が無料のカードだけを使っている*10。これは、キャッシュバックで元を取るためには結構な額、少なくとも僕は普段使わない額を使う必要があるが、そもそもクレカは 使わなければ100%キャッシュバック なので、そもそも キャッシュバック率は高い方が良いがキャッシュバック額は低い方が金が残る という考えに基いている。

投資口座

何故投資するのか

銀行金利よりインフレ率が高ければ、銀行預金の資産価値は減り続けるという話をした。なるべく高い金利のSavingsにいれておいて耐えるという選択肢もなくはない中で、何故それよりも資産が減るリスクを取ってまで投資をするのか?

僕は少なくとも老後働かなくてもお金がなくならない状態、あわよくば働かなくてもお金が減らない状態になりたいと思っていて、そのための投資がうっかり悪い方に転んでも後悔しない程度には期待値は高くできそうで、リスクも自分が期待する程度に調整できると判断したのでやっている。

例えば2000年に40歳だった人が$300,000の (今の価値で3116万円) 貯金があったとして、USの株式市場は20年後には拡大しているだろうと期待しこれをUS株式市場全体のインデックスであるVTSAXにいれて60歳になる2020年まで持っていると、何もしなくても$1,217,397 (1億2644万円) に増え億万長者になるのである。これは何故かというと、このインデックスの全期間での平均利回りは7%なのだが、仮に20年間毎年7%増えていた場合といういい加減な計算をすると、$300,000 × 1.07 ^ 20 = $1,160,905 という感じになり、指数関数になっているから年数が長いほど複利で爆発的に増えるのである。そして、これだけ資産があると、次の年に平均の7%増えると800万円以上になるので、リタイアしてもいい感じがする。*11

最も、これが次の20年で再現できる保証は全くないのだが、決まった時間に引き出さなければならないといった制約がない場合、不況が来ても市場が回復するのを数年待ったり、あるいは老後に近付くにつれてリスク資産の割合を減らすといった対応が可能になる。

何に投資するか

株に投資することにしたとする。世の中には自分の拠出額の数十%を会社が追加で拠出してくれたりする持株会というものがあり、そんなに追加でお金もらえるならその分も含めて負けることはないだろうと枠いっぱいに投資を続け、僕の資産の99.6%が自社株だったことがある。4年後には株価は買い始めた頃の10分の1にまで落ち込んでおり、会社の追加拠出では抑えられない状態になっていた*12。個別株にはそういうリスクがある。*13

じゃあどうするのかというと、時価総額加重平均を採用したインデックスファンドを使うことで、特定の会社が暴落した時のリスクは抑えながら、市場全体が成長し続ける限りは市場の平均の儲けを得ることを目指す*14。長期的に見て市場全体が成長しなかった場合儲からないことになるが、少なくとも上記で言及したUS市場はリーマンショックからは持ち直したし、コロナで下がった時も割と短期間で回復した。この先も不況から立ち直る保証はないが、US市場が十年とかの期間縮小し続けたらかなり多くの投資家が同時に損をするはずで、それで損をしてもしょうがないと思ってもいいくらいの世界の終わり的状況だと思う。

とはいえ、世界中の投資家が世界の終わりを迎えている時、特に老後は自分の家族には世界の終わりを迎えて欲しくないので、年齢が上がるにつれ資産をよりリスクが小さい資産に移していくことが必要になる。僕はインデックスファンドだけを使ったThree-fund portfolio *15 というのを組むことに決めたのだけど、これは例えば自分の年齢と同じ%分Bondを保有するといったリスク調整が可能で、そのように年一回リバランスし続けると、老後には不況が来ても資産があまり減らないが、Bondにより、現金で持っているよりは高い利回りが期待できるという状態になる。

どのように投資するか

インデックスをベースに投資したいだけならIndex FundでもETFでもどちらでもいいことになるのだが、僕が使っている口座ではETFだと自動積立ができず冒頭の方針に反するので、Index Fundを使っている。ただし、Index Fundが何%手数料を取ってくるというのは銀行によってまちまちで、なるべく手数料が低い銀行で口座を開設しないと損をする *16 。Vanguardは手数料が安いことで有名で、僕の知る限りではCharles Schwabとかでも同じインデックスで同じ手数料のファンドがあったりする。

401k / IRA

日本でいう企業型確定拠出年金 / 個人型確定拠出年金 (iDeCo) の話。

401kが会社にサポートされているか

弊社Treasure Dataでは福利厚生として401kが提供されていているのだが、このTwitterスレを見ると401kを提供していない会社は結構ある模様。それから、次に伸べるマッチング拠出の割合や、後述のBackdoor Conversionが使えるかどうかも会社によってまちまちらしい。皆Treasure Dataに転職すると良いと思う。

401k マッチング拠出 を使い切る

401kにPre-tax contribution (Elective Deferral) をすると、収入のN%を上限に会社が同じ額拠出してくれる、という制度。401kというのは老後になる前でも10%のペナルティを課税されつつも引き出すことができるので、このN%分拠出していない人はどう考えても損をしていることになる。会社が提供しているならば、ここまでは最低使うのが基本。

401k Pre-tax contribution を使い切る

2020年は年間 $19,500 まで Pre-tax か Roth で401kに拠出できるのだけど、これがマッチング拠出枠より大きくても、残りの枠もPre-taxで使い切った方がお得。所得税を回避して拠出できるので普通の口座で投資するより得なのは当たり前としても、ある一定の課税前収入をPre-taxで拠出した場合を、After-taxで少なくなった拠出からの後述のRoth conversionで同じ利回りで運用した場合と比較すると、最終的に引き出される額が前者の方が多くなるため。

401k After-tax contribution を使い切る

After-taxで拠出するということは普通の口座で投資するのとあまり変わらずこれだけでは得ではないのだが、これをRoth 401kやRoth IRAにconvert (Backdoor Roth IRA Conversionという) するのを会社がサポートしている場合、キャピタルゲインを非課税にすることができる。Pre-taxとAfter-taxは合計 $57,000 拠出できるので、 $19,500 とマッチング拠出分を引いた残りは全てAfter-taxにすると良い。Conversionにlimitはないので、全額Rothにconvertする。

Traditional IRA を使い切る

Roth IRAというのは年収が一定以上だと拠出できず、Traditional IRAもPre-taxでは年収が一定以上だと拠出できないのだが、After-taxならば年収上限なく、年間 $6,000 までTraditional IRAに拠出することができる。そしてこれを上限なくRoth IRAにconvertすることが可能で、あなたの会社が401kを提供してなくても、キャピタルゲインに課税されない魔法の投資口座を作ることが可能になっている。結婚していれば夫婦一人ずつ口座が開くことで拠出上限を二倍にできる。

老後日本にいても引き出せるのか

まとめ

銀行の利率やクレカのキャッシュバック率のチューニングは損をすることはないので、面倒じゃない範囲でやっておくと良い。投資にはリスクがあるが、もともと老後まで引き出さないつもりなら年金に突っ込むことで所得税を無視して拠出したり、キャピタルゲイン非課税といった節税の余地はある。

*1:例えば楽天銀行は、証券口座を開設して連携しておくだけで、それを使わなくとも普通預金金利が0.1%になる

*2:特に若いうちは資産の運用に無限の時間を使うよりは自己投資にお金を使った方が経済効率も良いと考えている。一方、資産運用は複利で効いてくるので、全く考えてないのもかなり損だと思う。

*3:これはやらなくても移住後1年クレカ使い続けたら720くらい行くんじゃないかという気もしているが、自分は試せないのでわからない。近日、クレヒスが必要な用事を全部消化できそうなので、スコアの暴落覚悟でローンは繰り上げ返済しようと思っている。

*4:スコアだけ見れば多くのカードにqualifyする、そこそこ良いスコア。でも後述の通り、スコアだけで欲しいクレカが手に入るとは限らない

*5:前提として、日本と違ってクレカを作った時点では費用が自動引き落しにならない https://twitter.com/00_/status/1313216904186802176

*6:なお、5にはローンをカウントしない。これには少し安心した。

*7:実際の申請プロセスではなかなか一瞬で承認には辿りつかなくて不安になるのだが、Chase Approval Guide https://www.reddit.com/r/churning/comments/65vg85/chase_nonautomatic_approvalreconsideration_guide/ を読むと安心できる。

*8:Paypalのカードは審査もゆるそうでかつ海外手数料も無料なので魅力的だったが、Paypalが使えるサービスをあまり利用していない僕にとっては キャッシュバックがPaypalのクレジットでしかもらえないのが微妙だった (Paypal creditは銀行に無料でtransferできるので問題にならないそうです) ので、Citibank Double Cashというカードを使っている。それから、yusk_ さんのまとめにはフラット2.5%のカードも紹介されているが、invitation onlyなので除外している

*9:ただ、最初に作ったBank of AmericaのCash Rewards Credit Cardは3%カテゴリが四半期を越えて固定できるのでギリ許容範囲で、少なくとも食事のキャッシュバックにはこれを使っている。今はたまたまPlatinum tierにいるので50%ブーストがかかり、食事をする度に4.5%キャッシュバックされる

*10:厳密には、Amazon Prime Rewards Visa Signatureは申請時にAmazonのPrime会員が必要なのでそこに年会費が存在するけど、半年free trialでPrime会員になっているだけで、キャッシュバック率2%上昇だけ見ると年会費は割に合わないので、半年後は無料で使っているかもしれない

*11:夢のある話だが、当たり前だけどこれは極端に話を単純化しているだけで、本気で毎年そうなる可能性が高いと思ってるわけでは全くない。この後に現実ランドの話をしている。

*12:まあ実際には資産の99.6%が株なのは流石に不便だったので、僕は株価が下がる前に全部売っていた。運が良かった。

*13:そういうスリルを味わうのが趣味な人はこの記事の方針の想定には含まれていないので、個別株をやりたい人は好きにしたら良いと思う。

*14:何故市場平均を目指すべきかは https://hayatoito.github.io/2020/investing/ が参考になる

*15:これは前述の平均7%の利回りだったVTSAXがメインのもので、リスクの中和のためにInternational StockとBondが使われている。例えばUSの市場は縮小したけど中国とかが世界の市場は拡大させたみたいなケースで損を少し抑えたり、そもそもStockが下がっている時はBondが上がっていたことが多いのでそれでリスクを抑えるといった効果が期待できる。なお、何故USの市場がメインかというと、もちろんUSに住んでるから手数料が低いというのもあるが、1994年以降S&P 500は743%上昇したけどUS以外のStockは237%しか上がってなかったという程度には過去にUSの市場が一番伸びてるからリターンの期待値が高いというのが大きい。

*16:https://www.amazon.com/dp/B07DH1QYJK/ という本でも、Merrill LynchからVanguardに口座を変えたのはthe best financial decisionだったと書いてある。Merrill Lynchに資産をつっこんでおくとBank of Americaのクレカのキャッシュバック率を上げられたりするのだが、手数料がもっと安いところで投資するのとトータルで比較したら多分損をすると思われる